オセロな二人

「オセロっていうのは、ライバルでカップルなわけよ」
「いきなりなに?」
 目の前の彼女はいつも唐突に、突拍子もないことを言い出す。それに付き合う俺も俺なんだけど。せっかく洒落た上に、夜景の綺麗なレストランを予約しても、ムードってものを理解してくれない。せっかくの料理もピアノの生演奏も台無しじゃないか。
「かくれんぼでもしてるんじゃないかって思うときがあるわ」
「もう少し分かるように話してくれない?」
「あの緑色の盤面でお互いを求めて探しまわっているのよ。でも近付くと背を向けて、すぐに隠れちゃう。自分が出てきて、一人で馬鹿をやってるみたい。酷い話よね」
 言いたいことがよくわからない。やれやれ。俺は赤ワインを飲む。そう言えば、飲みすぎじゃないのか、こいつ? ワイングラスは空じゃないか。飲めないくせに。
「あんまり強すぎるから、白ばっかり、黒ばっかりになるんだろうよ」
 適当に話をあわせておかないと、あとで何を言われるかわかったものじゃない。こっちの話をする隙はないものかね?
「そういう考え方もあるわね。でも相手がもっと強いなら問題ないのよ」
「そりゃそうだ」
 適当なのがばれたのか、彼女の気の強そうな目が釣りあがって、余計に怖く見える。まぁ、もう慣れたけど。
「私は相手が強くなるのを待ってられるほど、我慢強くはないわけ。私が強く言えば貴方は、すぐ自分の意志を隠しちゃう。オセロの裏表みたいな関係はごめんなのよ。一体いつまでこのままなのよ」
 ああ、なんだ。そういうことか――。
「お互い強いと、ケンカばっかりで疲れるだろう」
「疲れるかもしれないけど、勝ってばかりだと不安にもなるのよ」
 彼女はそう言って俺から目を逸らす。彼女の視線の先には、この街の夜景が見えているはずだ。柔らかい白熱灯に照らされて、赤い唇が震えているのが分かる。俺は意を決した。鼓動が高まっていく。
「そろそろ、かくれんぼは止めるか。まぁこいつが、なかなかできない上に、タイミングがなくてな」
 俺は、白いテーブルクロスの上に、深く青いケースを置く。
「ったく、人がせっかく、決めようって来たのに、オセロに例えられたら、話のしようがないだろう」
 彼女の方を向けて、俺はケースを開ける。
「そこの夜景に勝てるかどうかは、分からんけどな」
 彼女を大きく目を見開いて指輪と俺を交互に見る。
「今日くらい本気になってやるよ。このさい白でも黒でもどっちでもいい。一色に染めてやる」
 俺はまだ震えている彼女の手を取って、すっと指輪をはめた。

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